はしやすめ

ガッツリ妄想するところ

街灯の光があなたを射した #1 matori.h

「まだ決まってないんやったらどう?可愛いから大歓迎や」

 

春、誰にでも言ってるんだろうなってすぐにわかるセリフについていった。

 

 

「なあ枝豆向いてやぁ」

「まとりさんお酒くさい近寄らんといてください」

「ひど、泣くでおれ」

 

わかっててもついていってしまったのは、あのときのあの笑顔に惹き込まれたから。

 

その笑顔の主が、このまさに今隣で酔いに酔いまくってる人。

 

「なあもうまとり家送ったってえや」

「こいつもうあかんやろ」

「もう俺らには手におえん」

 

ケラケラ笑う先輩たちが、まとりさんにもたれかかられてるわたしに言ってくる。

 

女子に送らすことがあるか……?あいかわらずめちゃくちゃなサークル(というか先輩方)である。

 

と思いつつ、内心嬉しかったりするからとても自分がめんどくさい。

 

好きに、なってしまったんだもんなあ。

 

 

「まとりさん帰りますよ」

「えー帰るん?」

「帰ります」

「いややー」

「嫌やちゃうくて、」

 

遠いところで騒がしい音がする。さっきまでそこにいたのに、今はまったく別の世界にいるみたいで。

 

「そーや、ん、」

 

ニコッと笑ったまとりさんがこちらに手を差し出した。

 

「…なんですか」

「手ぇ繋ご」

「何言ってるんですか」

「手ぇ繋いでくれな帰らへん」

「はあーー!?」

「ほらはよー!まとりさん待ってるねんけどー!」

 

しぶしぶ差し出された手に自分の手を重ねたら、その瞬間にギュッと握られた。

 

「ん、帰ろ」

 

満足そうに笑うまとりさんは、いつも以上に顔が赤くて相当酔ってることがわかる。

 

夜道を、酔っぱらいと手を繋ぎながら歩く。(一応好きな人)

 

「まとりさんなんでそんな酔ってるんですか」

「んー?お前の分も飲んだから」

 

予想外の返答に驚いた。そういえばずっと隣にいたし、いつもめんどくさい絡みをしてくる先輩たちと今日はほとんど話してない気がする。

 

そう思い返すと、心臓がギュッとなった。

 

「…ありがとうございます」

「はは、どういたしましてーって別に俺なんもしてへんけどな」

 

ふたりでふわふわふらふらと歩きながら、なんとかまとりさんの住むアパートに着いた。

 

「まとりさん鍵はー?」

「えーわからん」

「何言ってるんですかはよ探してください!」

「うそうそ、あるから、ほら」

 

いつもよりふにゃふにゃと笑うまとりさんが、鍵をわたしに見せて、な、と首をこてんと傾ける。

 

鍵を差し込み、ドアを開け、中に入る。

 

手は、いつまで繋いでいるのだろうか。

 

「あーねっむ」

 

まとりさんがソファーに倒れ込むかのように腰掛けた。手を繋がれているわたしも、同じように座るしかなくて。

 

そういえば初めて家に入ったし(家は近いから場所は知っていた)、こんな時間に、ふたりっきりで、この距離で、

なんて考えてたら心臓の音がどんどんうるさくなってきて。

 

「まとりさん、お水とか、」

 

離れようと思い、立ち上がり手を振りほどこうとしたとき、それを阻止され、え、と思うときにはまとりさんのうでの中にいた。

 

「……え、まとりさん」

「行かんといて」

 

それは、頭のほうから聞こえたまとりさんの小さな声。

 

「行かんといて、○○」

 

そして、2度目のそれには、知らない女の人の名前もついていて。

 

「………え?」

「……」

 

まとりさんはしょっちゅう女の人と一緒にいるから、誰かと間違えてるんだなぁ、この女たらしめ、なんて、この状況のわりには冷静な判断が出来たものの、動揺は、する。

 

「……誰ですかそれ、まとりさん、」

 

離れようと試みるものの、背中にまわされたまとりさんの腕がそれを許してくれなくて。

 

「もー、まとりさん、」

 

離してください、と言いかけたとき

 

確かに、それは確かに聞こえた

 

 

 

「……好きやねん」

 

 

 

もうそれからはよく覚えていない。とにかくすぐに家を出て、走って走って、自分の家に帰った。

まとりさん家の鍵絶対閉めへんやろな、どうしような、なんて考えてたわたしなんて、そのときはどこにもいなくて。頭が真っ白のまま、とにかく走った。

 

 

 

 

 

神様、わたしは、この恋は、どうなるのでしょうか。

 

夏、少し切ない、あの人の笑顔。